今回は趣向を変えて、本の感想というものを書いてみます。
以前にこちらの記事で軽く触れた「イリヤの空、UFOの夏」
急な衝動に襲われ、久々に読み直しました。ほぼ一気読み。
せっかくなので感想を書いてみようと思います。
思いのほか長文になってしまいましたが、どうぞお付き合いください。
そして、この作品をまだ読んだことがない方。
この記事を読む前に、ぜひ手に取って、自分で読んでみてください!
目次
セカイ系の名作「イリヤの空、UFOの夏」とは?
「イリヤの空、UFOの夏」は全4巻のライトノベル(ラノベ)です。
2001年から2003年にわたって刊行されました。
(今から15年以上も前の作品なんですね…)
出版は電撃文庫で、作者は秋山瑞人先生。
SF、セカイ系の傑作として知る人ぞ知る作品です。
その証拠に「3大セカイ系作品」としてよくその名前が挙がります。
ちなみに、他の2つは「最終兵器彼女」「ほしのこえ」です。
(この二作品は凄く有名ですよね~)
余談ですが最近、「天気の子」と内容が似ている!
ということで少し話題にも上りましたね。
そんなイリヤの空、UFOの夏のあらすじを次項で紹介していきます。
ライトノベル版のあらすじと最後の結末は?
>>>以下ネタバレ注意<<<
主人公の浅羽直之は、どこにでもいる普通の中学生。
そんな彼の前に突如現れた不思議な転校生、伊里野加奈。
「ヤドカリのような性格」と作中で評されるくらいに無口で無表情な少女。
そんな二人の出会いをきっかけに物語はスタートします。
彼女と過ごすうちに、浅羽は様々な不思議な体験に巻き込まれます。
そんな経験を通して、伊里野と浅羽はお互いに惹かれ合っていきます。
ただし伊里野の正体や、学校のシェルターを始めとした周囲の不可解なものに疑問はどんどん深まるばかりです。
そして、だんだんと浅羽はそれまで見えていなかった色々なものに気づき始めます。
自分たちの与り知らぬところで進行していく、巨大な何かの胎動のようなものに。
そこには、信じがたい現実がありました。
・地球はUFOの侵略を受けていて、伊里野はそれに対抗できる戦闘機の唯一のパイロット
・三日後に始まる最後の戦いに敗北すれば、人類は滅亡してしまう
真実を知った浅羽。
これまでも、戦いのせいで苦しむ伊里野をさんざん目の当たりにしてきました。
「伊里野を助けたい」
その一心で、伊里野を戦わせず連れ出そうとします。
世界を犠牲にしての二人の逃避行が始まります。
しかし、皮肉にもそんな浅羽の思いが伊里野の背中を押してしまいます。
「浅羽のいる世界を守りたい」
そう思った伊里野は、ラストで戦闘機に乗り空へと帰っていくのでした。
感想や考察!この本に出合えてよかった…
いやーすごい。改めて読んでもすごい作品です。
15年以上たっても決して色褪せることはありません。
ラストはハッピーエンドではなく、現実的な重さがある締めくくり方でした。
それでも、いや、だからこそ胸を打つ作品だったと思います。
とにかく今は余韻に殺されそうになっています。つらい。
前半は中学生特有の青臭さとボーイミーツガールの甘酸っぱさに終始脳が溶けそうでした。
入部届のくだりでは浅羽と一緒にドキドキしたし、学園祭では一緒にお祭り特有の高揚感を味わえました。
青春時代の忘れ物を取り戻したような感慨がそこには存在します。
「土曜の半日授業」や「フォークダンス」のような懐かしさを覚える要素も登場し、それがタイムスリップしたような感覚に拍車をかける。
ありがとう。イリヤの空。この作品に出合えて本当に良かった。
内容とはそれますが、文章がライトノベル作家の中でも抜群に上手いですよね。
ライトノベルって基本的に文章が稚拙すぎて途中で読むの嫌になっちゃうんですが、
この作品はそういうのが全くありませんでした。
だからといって難解というでもなく、リズムのいい文体も相まって読み易い。
あと所々に入って来るメタファーが憎いですね。セミと伊里野の対比だったりとか。
初心者意見ですが普通に一般小説の中でもレベル高い方だと思います。
あとは何を書こう。
適当に印象に残ったキャラについて言及しますか。
まずは榎本。
初見のときは、本当に気にくわないキャラクターだったんですけどね…。
読了してから読むと180度違った印象になります。尊い。
浅羽に全てを打ち明けた後、おびえた様子で屋根からハシゴを降りていく榎本。
はじめ謎の存在だったころは、魔法のように姿を消して退場していたのとは対照的で印象に残るシーンでした。
榎本も浅羽たちと同じように悩み、苦しんでいるただの人間なのだなあと。
この作品ってボーイミーツガールもそうですが、青少年と向き合う大人の話でもあったと思います。
榎本や椎名の、伊里野のことが大好きなのに利用しなければらない心の痛み。
彼ら大人たちの伊里野に対する想いは果たして彼女に届いたのだろうか。
次にキャラについて言及するとしたら何といっても主人公の浅羽。
浅羽について語るとしたら、やはり3巻からの逃避行のシーンですかね。
「伊里野が苦しんでいる」
以前の浅羽なら、そんな状況に直面しても、見て見ぬふりをしたかもしれません。
(1巻の、教室で助けを乞う伊里野を無視してトイレに逃げたシーンがその対比ですね)
しかし、伊里野との出会いを通じて確実に成長した浅羽。彼女を助ける決心をします。
それが並大抵の覚悟ではないことは、発信器を取り出すために自らの首にカッターを突き刺した描写からも明らか。
このシーンの浅羽は心底格好良かった。鳥肌が立った。
その後の「中学生二人だけで生きていく」という挑戦。
浅羽が本気でやろうとしていたそれは、我々大人から見れば到底不可能なことです。
もし、この作品が巷にあふれるご都合主義なそれなら何とかなってしまうかもしれません。
しかし「イリヤの空」では、残酷なまでに中学生の無力さという現実を突きつけてきます。
寝泊りの場所と、現金を失い、絶望の淵に立たされた二人。
こんなはずじゃなかった、現実に敗北し、己の無力感に苛まれる浅羽。
伊里野に八つ当たりをする浅羽。
この感情に任せて行動する浅羽は本当にバカで見苦しい。
しかし反面、非常に人間臭くもあります。
確かに浅羽の行動は間違っていたけれど、自分はこのときの浅羽を嫌いにはなれない。
この一連の出来事で、伊里野は完全に壊れてしまいました。
ここから伊里野がボロボロになっていく様子はただただ切ない。
鋭利な刃物となって心をぐさぐさ抉ってくるようだった。
しかし伊里野の退行によって、浅羽は疑似的に過去の伊里野と対話をすることになります。
「好きな人が、できたから」
伊里野の自分に対する思い、そして生きる意味を知った浅羽。
そこからの展開は涙なしには見れません。いい年してボロボロ泣きました。
物語の終わり方としては、胸を打つ奇麗な幕引きだったと思います。
ただ本当にみんなハッピーで終わることはできなかったのだろうか…
それでも、以前は生きたいとすら思っていなかった伊里野。
浅羽に出会い、思いを伝え合えたことは幸せだったといえるのか…?
いや確かに幸せだったと思うんだけど、もっと幸せになって欲しかった…
ラストのシーンでは新聞部のみんなでこの夏に終止符を打つ。
けれども伊里野と過ごした夏の思い出はみんなの中に生き続けるのだろう。
終わりに
イリヤの空の感想を書きました。
この作品に出合えて本当に良かったです。